“天才になれなかった全ての人へ”-持たざる者と持つ者の葛藤と苦悩の漫画-【左ききのエレン】

“才能”とはなんなのか。
考えることがあります。

 

 


例えば、勉強については、人よりも少ない勉強量で、人並み以上にいい成績をとってしまうような人物を“才能のある人物”というのかもしれません。

 

 


しかし、一方では人並み以上に努力して、人より好成績を収める人についても、

“努力することができる才能を持つ人物”と言われることもありますよね。

 

 


たぶん、一口に“才能”といっても様々なものがあるわけで、
「なんの才能もない人なんていない」なんてことも言えるのかもしれませんし、

「才能がなければ生きていくことができない」なんてこともないのかもしれません。

 

 


“才能”について、辞書に書いてあるような、明確な答えを求めているわけではないのですが、
「“何らかの才能”に出会って、圧倒されたい」といった願望が、いつも私の胸の中にはあるように思います。

 

 


今回ご紹介するのは、

広告業界に勤務していた経験のある著者が描いた、アート、広告業界が舞台の、そんな“才能”あるいは“天才”をテーマにした漫画です。

 

 


“天才になれなかった全ての人へ”
タイトルでも使用させていただいた、このキャッチに惹かれました。

 

 

左ききのエレン 1 (ジャンプコミックス)

左ききのエレン 1 (ジャンプコミックス)

 

 

  

主人公の朝倉光一は26歳。現在、広告代理店でデザイナーの卵として、いつか“キラキラした何か”になりたいと思い、自分なりに努力し、悪戦苦闘しながら、働いています。

 

 

物語は、その現在と光一にとって人生の大きなターニングポイントとなった、表題にもなっている、絵の才能にあふれる天才「エレン」とが初めて出会った高校三年生の時代とを行き来しながら進んでいきます。

 

 


本書を読んでいると、アートやデザインの世界における“才能”とはあいまいなようで、残酷なほどにわかりやすく、“持つ者”と“持たざる者”との差が、いかに明確な結果となって反映されるのかを考えさせられました。
持たざる者は向上心を持ちながらも、上手くいかず、自尊心ばかりが肥大する。
持つ者は、持ってしまっていることで、それが一種の呪いとなり、自身の才能に縛られる。

 


光一とエレンという、対極とも言える二人を通じて、その葛藤や苦悩が丁寧に描き出されています。
脇を固める登場人物らも非常に魅力的で、その全員が本気で真剣、本作品の熱さを支えています。

 


私自身、一人の社会人として、心に響く名言も多く、一つ一つの言葉が熱く、重く心に突き刺さりました。
また、心に響く名言だけでなく、パッと聞くと、かっこよく聞こえる言葉でも、立場や状況によって、白々しく陳腐なものになりうるような、一般的に名言と呼ばれるものに対するアンチテーゼが作品に含まれているのも面白みの一つだと思います。

 

 


本書はウェブ漫画として、配信されてたものがリメイクされて、現在、少年ジャンプ+で配信されているので、気軽にスマートフォンでも読めます。
少年漫画だけど、大人向け。
まさにそうした漫画の代表かと。

 


実は、リメイク前の本作品については、すでに完結しています。
もし、リメイク後の本作品を読んで、先が気になりすぎるようであれば、有料ではありますがそちらを読んでみるのもいいのではないでしょうか。

 

(文/三田稔)