孤独のハンバーガー【映画の「食べる」を楽しむ:「アルゴ」】

 

気がつけばもう11月。
束の間の秋が終わろうとするかのように、日に日に寒くなってきている今日この頃。
僕としては、現状、少しでも長く食欲の秋、美食の秋を堪能すべく、目下、色気より食い気といった次第である(※巷では「〇〇の秋」といった言葉が溢れ返っているが、その本流について、気になるので調べてみたい)。
もちろん、「食」とともに「映画」を楽しむことも忘れない。

 


近所の映画館で、面白い映画を観た後に、美味しい食事に舌鼓をうつ。
お酒も一杯ひっかけたりなんかもして、1日を気楽に過ごすのもいい。
昼間であれば、午前中の映画を見た後、ハンバーガー片手に、秋のドライブなんていうのもありだ。
本格的な冬の寒さが来る前に、出来るだけ長く、秋のゆるやかな雰囲気を感じていたいと思う。

 


そんなこんなで、若干の無理矢理感もあるが、今回は映画「アルゴ」と同作品内で主演のベン・アフレックが口にする「ハンバーガー」を紹介したい

 

〇 「アルゴ」について

 

アルゴ (字幕版)

アルゴ (字幕版)

 

 

2012年公開のアメリカ映画。
実際に起こった、在イランアメリカ大使館人質事件を題材としたスリラー映画である。


イラン革命により、イラン国内から放逐された国王・パフラヴィー二世が国外に亡命。
その亡命をアメリカが受け入れたことへの反発から起こった、在イランアメリカ大使館人質事件。


イラン国内の暴徒によって、在イランアメリカ大使館が占拠されるが、大使館職員の内6名は逃げ出すことができ、カナダ大使の私邸に匿われることに。
この6名を救出するため、CIA(中央情報局)は偽のSF映画製作をでっち上げ、6名を映画製作のスタッフに変装させて、秘密裏にイランから脱出させようとする。


ここまでが、この映画の大まかなあらすじである。


表題の「アルゴ」は、作品中に登場する偽のSF映画の題名から取られている。


「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」や「アルマゲドン」で知られるベン・アフレックが監督・主演。
同人の演じるトニー・メンデスは人質救出のプロで、髭がよく似合う渋くてカッコいいおじさんといった風体だ。


6名の人質たちが心理的に追い詰められていく描写も含め、手に汗握る人質救出の過程に物語の主眼が置かれているが、そのほかにも、理由あってバラバラで暮らすトニーの家族に関する描写なども随所に挿入されており、いかに人質救出のプロ・英雄といえども、1人の人間であることを再確認させてくれる構成にもなっている。


実際の事件とは、異なるところがいくつかあって、エンタメ的に脚色されている部分もあるとはいえ、内容は非常によくまとまっており、アカデミー賞作品賞受賞映画であることにも納得だ。


このように、国内外で高い評価を受ける作品である一方で、実際の事件を題材にしていることもあって批判もある。
イラン国内では「この映画は事件をアメリカ側の視点で描きすぎており、反イラン的だ」とされていることなどが一例だ。


歴史的な背景や史実に関しては、僕自身、曖昧な部分もあるので割愛するが、気になる方は調べてみるといいかもしれない。

 

 

〇 「ハンバーガー」について


さて、劇中に登場するハンバーガーについてである。

 


トニーがハンバーガーを食べるのは、物語序盤。
自分の家で、離れ離れに暮らす息子と電話するシーンだ。

 


人質救出に関する会議を行うも、いい案が出ることもなく1日が終わり、家に帰ったトニー。
目の前のテーブルには、ファーストフード店のものと思われるハンバーガーや飲み物が乱雑に置かれている。
おもむろに電話機を掴み、息子に電話をかける。
息子になにをしているか尋ね、テレビを見ていると返答されれば、同じチャンネルに合わせるトニー。

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(「アルゴ」本編より)

 

トニー:「今日学校でなにがあった?」

 

息子:「なにもなかった」

 

トニー:「なにもないことはないだろ」

 

息子:「カードを交換した」


息子と電話しているときに、せめて、同じような時間を共有したいがために、同じテレビ番組を見る。
これといった用事があるわけではないが、声が聞きたいがゆえに、テンプレートな会話を投げかける。
そして、離れて暮らす息子を思いながら、孤独とともにハンバーガーを噛みしめる。
トニーの息子に対する思いが、画面越しに伝わってくる、なんとも哀愁漂うシーンである。

 

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(「アルゴ」本編より)


しかし、ここで見ていたテレビ番組がきっかけで、トニーは映画を利用した人質救出策を思いつくこととなる。
策を思いついた瞬間、親としての顔から仕事人としての顔に変わる様は見た目にもわかりやすい。

 


そのほか、別のシーンでは、美味しそうなタコスが登場するのだが、両シーンに共通していえるのは、ごはんタイム=家族の話になっているところだろう。

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(「アルゴ」本編より。こちらはタコス)


映画における食事シーンは、作中でキーとなる会話を引き出すのにもってこいのシーンだと思う。
「アルゴ」では、それらが登場人物らの仕事以外の内面を掘り下げることにつながり、ひいては人間的でプライベートな面にスポットを当てることになっている。

 


哀愁漂う男の生き様。
ハンバーガー1つから感じられるそんなところも本作品の魅力の一つであると思った。

 

 

(文/三田稔/ライター)