『せとうちアート探訪 vol.3』 ぼくとわたしとみんなの絵本の世界

「ここのところ、急に冷たい風が吹いたりする日もあるけれど、ほとんど毎日がポカポカ陽気で、公園全体がうす桃色にかすんでいる。」

 (高山なおみさんのエッセイ『帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。』より)

 

うす桃色な季節にはまだ少し早いですが、春の訪れをだんだんと感じる3月が好きです。

 

『せとうちアート探訪』第3回は、残る寒さを吹き飛ばすような、可愛い楽しい絵本原画展を2つご紹介します。

 

 

「ぼくとわたしとみんなの tupera tupera 絵本の世界展」(ふくやま美術館)

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tupera tuperaさんは、絵本、雑貨、アニメーション、舞台美術など幅広い分野で活躍する2人組のアーティストユニットです。

 

横須賀、三重、浦和と巡ってきた「ぼくとわたしとみんなのtupera tupera絵本の世界展」が、今週末3月24日(日)まで広島県福山市で開催されています。

今回の展示では、代表作である絵本の原画を中心に、立体やイラストレーション、映像作品など、tupera tuperaさんの軌跡を辿る様々な作品と活動を知ることができました。

 

 

福山に、パンダ銭湯現る!

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tupera tuperaさんの代表作『パンダ銭湯』、ご存知の方も多いかと思います。

絵本の表紙を見て、可愛いパンダの親子のお話?と思いきや、だんだんと暴かれていくパンダの秘密…。親子の会話や、銭湯内の細かい描写も楽しくて、私自身とても好きな絵本です。

 

展覧会の会場内には、なんと絵本から飛び出したようなパンダ湯が…!

「ささのかほりリンス」や「サササイダー」、絵本の内容を細かく再現されていて、子どもたちも大喜びの空間でした。

 

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 こだわりの本づくり

今回の展示を見てまず驚いたのが、絵本の原画の細かさです。

貼り絵やコラージュを駆使した作品が多いのですが、色鮮やかで繊細なパーツを一つひとつ貼り合わせていくその作業は、もはや職人技!


そして、お二人の作品の作り方も素敵。

基本的に、どちらかがお話担当、絵の担当などと決まっているのではなく、お二人で机を並べて相談しながら、同時進行で制作されているのだそう。同じ人間のパーツでも、顔は亀山さんで服は中川さんが作られたりすることもあるとか。そんなにも気持ちが通じ合っているユニット、そして夫婦ってすごい…!
(tupera tuperaさんは、二児のお子さんを持つご夫婦でもあります)

 

 

また福山での原画展を見に行った後日、京都で開催された「布博・紙博」というイベントにtupera tuperaさんがトークゲストとして来られていたので、そこでお話もお聞きしてきました。

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4冊ほど絵本の読み聞かせをしつつ、子どもの好きなあるものの書き方を目の前でレクチャーしてくださったり、最後にはみんなで歌を歌ったり! 制作秘話もふんだんに盛り込んだとても楽しい時間でした。(上の写真は『パンダ銭湯』読み聞かせ中の様子)

 

特に面白かったのが、作る絵本によって素材や画材を色々と使い分けられているというお話。
例えば『パンダ銭湯』のパンダも、耳の部分はカラーインキ、目の部分は少し透けるツルっとした紙、体の部分は黒い布…と読んだ人にはわかると思いますが、ちゃんと意味のあるこだわりが。とはいえ、印刷して絵本になると、全て黒であまり違いは分からないそうです(笑)


何よりお二人が作品作りを楽しんでいるからこそ、子どもも大人も楽しめる作品が次から次へと生まれてくるんだろうなと感じました。

 

 

みんなで楽しむ

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お二人が制作と並行して大切に取り組まれているのが、全国各地の図書館や書店さんでのワークショップ、絵本ライブの開催です。今回の福山の会場でも、マスキングテープでお面を作るワークショップが開催されました。


「何かを教えてあげたいというような教育的な目的は何もなくて。やりたい人が集まって楽しめたらいい。大人のテクニックを子どもに見てもらったり、逆に子どもらしい発想を大人に見てもらったり。他の人の個性をみんなで楽しもうということ。」(雑誌MOEのインタビューより)

 

 

私は普段、趣味の活動の一つとして、「松山子ども劇場21」というNPO団体のお手伝いもしています。子ども劇場のメインの活動は、プロの劇団さんを松山にお呼びして、舞台劇や人形劇など子どもも大人も楽しめる生の公演をみんなで観る、ということなのですが、他にも夏には子どもたちとキャンプに行ったり、野外で何かを作って遊んだりといった体験活動も様々行っています。

子どもたちと一緒に遊んでいていつも驚かされるのが、子どもの豊かな「発想力」です。絵本や舞台、何もないところから生まれる遊び、それらは子どもたちの発想力や想像力をさらに広げてくれるきっかけになるはずです。また、普段は関わらない大人や、異なる年齢の友達と一緒に活動することで、他の人の個性や多様性も感じることができます。


子どもも大人も一緒に楽しめるtupera tuperaさんの絵本や、ワークショップの活動から、改めて自分にできること、子どもと関わる意義についても考えることができました。

 

ちなみに松山子ども劇場、先日3月17日(日)には『パントマの箱』というパントマイムショーがあったり、24日(日)には『忍者になるんじゃ』という野外活動もあります。

来年度の公演も人形劇などいくつか決まっていますので、少しでもご興味ある方はぜひホームページをご覧いただけたら嬉しいです♪(笑)

matsuyamakodomo.or.jp

 

 

 

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メッセージ性のある分かりやすい教科書のような本ではなく、想像できる余白や予想外のユーモアがあるtupera tuperaさんの作品たち。

先日、「やなせたかし文化賞」の大賞も受賞され、これからますます活躍の幅を広げていかれるのでは。


すでに今年の年末には京都、来年年明けには高知への巡回も決まっているそうなので、今回福山に行けない方も、ぜひお近くの会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

お二人のトークを聞いてまた改めて絵本原画を見たくなったので、私ももう一度“ぼくとわたしとみんなの絵本の世界”を体験しに行きたいと思ってます!

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www.city.fukuyama.hiroshima.jp

 

 

 

 

(おまけ)福山アート探訪

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福山駅前からバスで30分ほど、ノスタルジックな港町・鞆の浦にも足を延ばしてみました。
2月は海風が少し肌寒かったのですが、細い路地をぶらぶら歩きながら、歴史ある町並みを楽しむことができました。

 

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鞆の浦には築150年の蔵をリノベーションした「鞆の津ミュージアム」もあり、アール・ブリュットな現代アート作品を無料で鑑賞することができます。アール・ブリュットに対して個人的には少し苦手意識があるのですが、今回開催されていた企画展『かたどりの法則』は、アートとは何か、表現とは何か、とても考えさせられる内容でした。

また福山には、「クシノテラス」というアウトサイダーアート専門のギャラリーもあります。ご興味のある方はそちらも合わせて訪ねてみては。

 

それから最近、旅先の純喫茶めぐりにもハマりかけている私。
福山でもいいお店見つけましたよ。

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福山駅すぐ近く、創業63年の「純喫茶ルナ」
3階建ての建物と幅広い客層。名物「プリントップ」をぜひ。

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「絵本になったねずみのシーモア原画展」(松山  本の轍)

絵本好きにおすすめの絵本原画展情報を、もう一つ。

松山にある本屋「本の轍」さんで、3月21日(木)より「絵本になったねずみのシーモア原画展」が始まります。

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絵を描かれた福田利之さんは、本の轍さんのお店ロゴも手がけられている方で、私の一番好きなイラストレーターさんなんです…!

松山で福田さんの原画を見られて、ご本人も来てくださるなんて本当に嬉しいです…。

本の轍さんありがとうございます!!(笑)

 

発売前の新作絵本『ねずみのシーモア』、先日少し見させていただいたのですが、ページ毎に様々な世界が広がるとても素敵な絵本でした。

福田さんの作品は、コラージュを用いたものやギザギザとした線画など、モチーフに合わせて様々な技法を使われています。今回の絵本はいったいどうやってどんな技法で描かれているのか、、生の原画を見るのが楽しみです。

 

“本と雑貨をハシゴして、ついでにコーヒーも飲める本屋さん”をコンセプトに、2017年11月松山市春日町にOpenした、本の轍さん。

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本の販売だけでなく、毎月様々な企画展やトークイベントも開催されているのですが、特に多く開催されているのが、絵本原画展です。


先日3月16日までは、出口かずみさんの可愛くユニークな作品を堪能できる『にぎやかなおでん展』

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また2月には、平澤まりこさんの『ねぶしろ原画展』も開催されました。 

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ギャラリーや雑貨店などが少ない松山で、小規模でも本物の絵本原画を見られる、貴重で素敵な本屋さんです。

オープン日、企画展の最新情報は、SNSをぜひご確認ください。

twitter.com

 

 

【3/21 追記】

個展初日、まさかの一番乗りでシーモア君に会いに行ってきました!

全部で11点の原画が展示されていて、福田さんのオリジナルグッズも多数並んでいましたよ。

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紙に印刷された絵本と原画を見比べながら、ぜひシーモア君と一緒に本の世界を探検してみてください!

店主・越智千代さん手作りの編みぐるみシーモア君もお待ちしています。

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松山には、他にも様々な本屋・古本屋さんがありますので、福山もいいけど松山にも!ぜひお越しくださいね。

  

春に向けて野外でのイベントも増えてきましたが、親子や友達と、もしくはのんびり一人で、美術館や本屋さんへ絵本原画を見に出かけてみてはいかがでしょう。

  

(文/たけうちひとみ/愛媛県在住。本にまつわるイベントやアートイベント、子どものための舞台上演のお手伝いなどしています)