『せとうちアート探訪 vol.2』 異国を感じる広島アート旅
寒い寒いと言ってる間に、2月になってしまいました…!
遅ればせながら、今年もぼちぼち文章綴っていきたいと思います。よろしくお願い致します。
『せとうちアート探訪』第2回は、先日訪れた広島の美術館および、私的おすすめスポットをあれこれご紹介します~
パリにかけたポスターの魔法「サヴィニャック」(広島県立美術館)
レイモン・サヴィニャック(1907-2002)
フランスを代表するポスター作家。《牛乳石鹸モンサヴォン》(1948/50年)に代表されるように陽気でシンプルな彼の作品は、それまでの伝統だった装飾的な要素を排したことでポスターの様式を一新しました。身近な食料品や日用品からシトロエンやダンロップ、ティファールなど実に多様な広告を担ってきたサヴィニャックのポスターは、パリにとどまらず世界中の人々に今日もなお愛され続けています。
‟おしゃれなカフェで時々見る、チョコを食べている男の子のポスター“
正直それくらいのイメージしか持っていなかったサヴィニャック。
しかし今回、約200点のポスターや原画・資料を見て、「サヴィニャックの魔法」にすっかり魅了されてしまいました。
可愛いだけじゃないユーモアとエスプリ
『「どのようにメッセージを届けるか」という永遠の課題に対して彼が出した答えは、商品に人や動物のモチーフを組み合わせ、明快な造形と色彩によって視覚的なインパクトを与えることでした。』
このイラストのタイトルは《ひとりでに編める ウット毛糸》
サヴィニャックのポスターでは、商品を擬人化させそのものの魅力や使い方を伝えるような作品が多数あります。
こちらは《マギー・チキン・ブイヨン》のポスター
原材料が何なのか、可愛くわかりやすく伝わってきます(笑)
このような、大きいものでは幅4メートルにもなる大型ポスターもいくつか飾ってあり、とても見ごたえがありました。
ポスターはただのアート作品ではなく、物事の情報を的確に伝えるための広告手段です。合わせて、それを見ただけで興味を持ち、実際に購入したい、体験したいと思わせなければなりません。
モチーフ、配色、文字のデザイン、全体のバランス……たった1枚のビジュアルで瞬時に人の心を射抜く彼のスタイルは、フランス・日本だけでなく世界中から愛されてきたことが良くわかりました。
私も仕事や趣味でイベントのフライヤーなどを作成する機会が何度かあり、毎回あれやこれやと悩むのですが…。サヴィニャックのユーモアとエスプリ、なかなか真似は出来ないですが、アイデアを考える上でのヒントも貰えたように思います。
また今回の展示では、サヴィニャックの作品を年代順ではなく、「動物たち」「働く人」「製品に命を吹き込む」「子どもたち」「指差すひと」といった10のモチーフやアイデアで分類して紹介されています。
違う商品や企業のポスターでも、似たような構図の作品を見比べたり、配色のこだわりに気づけたりと、サヴィニャックの制作意図が伝わる展示となっていました。
街を彩るアート
日本の駅のホームやビルの上にあるような広告看板と言えば、芸能人や商品の写真を使ったものがほとんどです。
しかしサヴィニャックのイラストのポスターが街角に並ぶと、それだけで街がギャラリーになります。
道行く人々の心を躍らせ、パリの街を彩ったサヴィニャックのポスター。
今回、展示会場の外、入口の自動扉やエスカレーター、エレベーターの中など様々な所にサヴィニャックのイラストパネルが飾られており、それらを探しながら美術館を歩き回るのもとても楽しかったです。
東京、栃木、三重、兵庫と巡回してきたサヴィニャック展、広島がラストの会場となります。
今週末は広島県立美術館に足を運び、サヴィニャックの魔法の力を体感してみてはいかがでしょうか。
世界各地の地表を切り撮る「松江泰治 地名事典」(広島市現代美術館)
広島に行くならぜひ訪れてみてほしい美術館がもう一つ。
比治山の山頂にある「広島市現代美術館(MOCA)」です。
広島市現代美術館は、1989年公立館としては国内初の現代美術を専門とする美術館としてオープンし、今年で開館30周年になります。
まず何といっても、美術館の建物そのものがかっこいい。建築設計は黒川紀章氏。
美術館外にも彫刻作品が多数展示されており、配布されている「野外彫刻マップ」を見ながら、周囲を散策するのもおすすめです。
現在2月24日(日)まで開催されている特別展は「松江泰治展」
松江泰治(1963- )
東京大学理学部地理学科卒業後、写真作家としてデビューします。以降、地平線のない構図、平面性への強いこだわり、被写体に影が生じない順光での撮影という一貫したスタイルで世界中の土地を撮影してきました。作品では、中心性、周縁、奥行、コントラストが徹底して排除され、あらゆる要素が等価に扱われたフラットな画面として提示されます。
世界各地の土地の表面、いわゆる「地表」を被写体としている松江さんの作品。
写真の技術的な面はあまりわからないのですが、大きなパノラマ写真でも、端から端まで画面全てにピントが合っているような、あたかもその光景を今自分も見ているような不思議な感覚になりました。
刻々と変わっていく自然の姿、そこで暮らす人々の営み、目に見えるすべてを残しておきたい、そのような強い思いを感じました。
写真とはただの記録なのか、それとも何かを伝えるための手段なのか、アートとしての作品なのか。同会場で松江さんと森山大道さんとの対談も行われたそうで、そちらもお聞きしたかったです。
松江さんの視点で切り取った世界各地の地表と、その「地名事典」
素晴らしい美術館建築と共に、ぜひご覧になってください。
みずみずしい光の食卓「ULALA IMAI gathering」(READAN DEAT)
せっかくなので、美術館以外にも。
原爆ドームからほど近い本川町にある、本と器を扱うお店「READAN DEAT」
ギャラリーも併設されており、様々な企画展やイベントも定期的に行われています。
本と器とギャラリースペースでワンフロアを使われているのですが、そのバランスがとても良くて、憧れのお店です。
訪れた際ちょうど開催されていたのが画家・今井麗さんの個展でした。
トーストの絵は、植本一子さんの著書「かなわない」の表紙になっており見覚えのある方もいらっしゃるかと思います。今回は今井さん初となる作品集「gathering」の出版を記念した展覧会ということで、計7点の油絵の作品が展示されていました。
そうなんです、今井さんの作品はすべて油絵。この食べ物のみずみずしさが油絵で表現できるなんて驚きました。
誰かの食卓をのぞき見しているような、いや、自分が撮った写真を見ているような。
目に前にあるものをリアルに描いているのに、どこか遠くノスタルジックな感じもする今井さんの作品。
「内側から光を放つことをイメージして、素早く、絵の具が乾かないうちに、描き切る。」
今井さんが描いているのは、食べ物やモチーフそのものの放つ光なのだと感じました。
READAN DEATさんでの展示は1月で終わってしまったのですが、また今後の今井さんの作品もとても楽しみです。
広島に来たなら、市内で一泊しちゃいます?
…ということで(?)アート、本、コーヒー、そして子どもと犬好きにはたまらない個人的おすすめのゲストハウスもご紹介します。
ニューヨークの街角 36Hostel
ニューヨークというかブルックリンというか、突如現れるおしゃれな外観の建物。
建物全体がホステルとなっており、その1階真ん中部分はブックカフェになっています。
ホステルのエントランス及び共有スペースにもたくさんの本が置いてあり、写真集や建築に関するビジュアル本、小説文庫本も。私好みの本が多すぎて、深夜にちょっと居座ってしまいました(笑)
おしゃれなだけでなく、アットホームな雰囲気で居心地も良かったです。
そして翌朝、1階のブックカフェに訪れると、オーナー夫婦の息子さん3歳のハル君と、看板犬のオットが出迎えてくれました。とにかくこのコンビが可愛すぎて。。言葉では言い表せないので、ぜひ癒されに行ってみてください。
オーナーさんも気さくな方で、ホステルを始めた経緯、広島の本屋さん事情など、色々なお話を聞かせてくださいました。
カフェ利用だけでもおすすめです。
その他にも広島市内でおすすめのお店を少し…
雑誌を多く扱う古民家を改装した古本屋「nice nonsense books」
北欧雑貨のお店「Piröleikki ピロレイッキ」
創業70年、広島で一番古いまるで教会のような喫茶店「中村屋」
原爆ドームや宮島だけじゃない、何度でも訪れたくなる広島。
今回も、旅記録&個人的おすすめスポットを長々と書き連ねてしまいました…。
ここまでお読みいただきありがとうございます。何か気になる場所やアーティストとの出会いがあれば嬉しく思います。次回はどこへ行こうかな。
(文/たけうちひとみ/愛媛県在住。本にまつわるイベントやアートイベント、子どものための舞台上演のお手伝いなどしています)