巨大バナナと巨大セロリの丸齧り【映画の「食べる」を楽しむ:「スリーパー」】

昔は身体に悪いとされていた食べ物が、時を経て、実は身体によかったという研究結果が出たりすることがある。

 

 
例えば、卵などは昔は心臓に悪いと言われており、コレステロール上昇の原因とまで言われていたものの、近年の研究では、正常なコレステロール値の人にはほとんど影響がないとされた。
むしろ、栄養を豊富に含む、優秀なタンパク食品と称されるまでになった。

 


「昔は身体に悪いとされていたものが、実は身体に良いとされたもの」について上述したが、その逆「昔は身体に良いとされていたものが、実は身体に悪かった」という研究結果が出たりすることもある。
それどころか二転三転することもあるように思う。

 


僕はコーヒーが好きなのだが、これにいたっては、身体に良いのか、悪いのか、様々な情報が飛び交いすぎて、もはや僕にはその効用が
よくわからない。
知ろうとしてないことも原因の一つではあるのだろうけれど。
コーヒーは美味しいので、健康に良いことも願いたい。

 


この映画「スリーパー」の世界観では、まさにそんな二転三転について考えさせられた。


〇 「スリーパー」について 

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 (あらすじ)
ひょんなことから1973年に冷凍冬眠させられ、200年後の2173年に目覚めたマイルズ。全体主義社会となった近未来でのマイルズのドタバタを描く、SFコメディ。
軽妙な音楽に加え、近未来というか、社会そのものに対する絶妙な風刺も魅力的なウディ・アレン主演・監督作品である。

 


ウディ・アレン演じる主人公マイルズは、もともと健康食品店に勤務し、人一倍健康に気を使っていた人物である。

 


マイルズの生活していた1973年当時では、小麦の胚芽、有機蜂蜜、発酵ミルク…といった、2018年現在でも栄養価が高そうに感じられる食品が健康的であるとされていた。

 


しかし、2173年の社会では、どう考えても健康的のレッテルが貼られているとは言いがたい、脂身、ステーキ、パイなどが研究の結果、健康的かつ長寿に効果のある食品とされているのだ。
ついでに言うと、タバコもリラックス効果があり、健康に良いものとされている。

 


こうした食に関する描写一つとっても、なんだか「正しさ」に関して、ウディ・アレンの風刺が垣間見える気がするのは、若干穿ち過ぎた物の見方だろうか。

 


とりあえず、風刺とまでは言わずとも、1973年当時とは違う近未来の常識に、マイルズが何度も直面し、あたふたしたり、ユーモアたっぷり行動で乗りきる様を見るのは単純に面白い。

 


「全体主義に染まる近未来」といえば、ディストピア映画のような暗い雰囲気を感じる方も多いと思うが、本作は終始ウディ・アレン節でコミカルに描かれているため、まったく暗くない。
それどころか、むしろ随所でコメディに寄りすぎているといっても過言ではない作品である。
(※とはいえ、ぼくがよく行くレンタルショップでは、「SF」でも「コメディ」でもなく「ドラマ」の棚に置いてあったのは興味深い

 


〇 巨大バナナと巨大セロリ

 

この映画には、一枚の皿に入ったスープのような妙な未来食(※まずそう)やボコボコ膨らむスライムのようなインスタントプディング(※もっともこれに関しては誰も食べてはいない)、生肉を齧るシーンなど様々な食に関わるシーンが登場する。
そのため、どのシーンを紹介するか色々と迷ったが、ここでは僕の中で特に印象に残った「巨大バナナと巨大セロリを食べるシーン」を紹介したい。

 


劇中、マイルズは近未来の警察からその思想性を疑われ、追われる身となる(※前述したように、本作に登場する近未来は全体主義国家であり、国民を洗脳している。マイルズは過去の人間なので、思想が全く異なり、警察から追われるのだ)。
そのマイルズの逃亡劇も映画の主要素となっている。

 


そんな逃亡中にひょんなことから知り合い、半ば強制的に共に逃亡することとなるのがダイアナ・キートン演じるルナである。

 


当初、ルナはマイルズが指名手配犯であるということもあって、不信感を持っており、目を離せばすぐにで警察に通報しかねない勢いであった。

 


半ば強制的に逃亡することとなったそんな当初、ルナは散々わめき散らした挙句、今度は「お腹が減った」と言って、騒ぎ始める。
そこでマイルズ、レジスタンスへの合流を考えていたこともあって、「自分が食事を調達してくれば、道案内をするように」と言い、1人、食事を調達しに行くこととなる。

 


そこで、食料調達に向かったマイルズが見つけるのが畑?というより、巨大な広場にある、チューブで繋がれた巨大なセロリやトマト、バナナなどの巨大野菜と巨大果物だ。
どれくらい大きいかといえば、写真を見てもらってわかるように、人1人の大きさをゆうに上回っている。

 

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(「スリーパー」本編より)

 

おそらくチューブから謎の栄養剤が注入されて、巨大化しているのだろう。
たくさん生産するよりも巨大化する方がメリットがあるのかどうかはよくわからないが、妙なチューブのせいで、味が損なわれたりしないのか気になるところである。

 


それらの巨大果物と巨大野菜そのものは、非常にチープで、公園の遊具にしか見えないが、そこがまたバカバカしくていい。

 

 

この後、畑の主に見つかって、マイルズが野菜で畑の主を叩きのめしたり、巨大なニワトリも現れたりと、ひと騒動あるのだが、無事に巨大バナナと巨大セロリを持ち帰ることに成功する。

 


そして、いっときの隠れ家と思われる洞窟のような場所で、マイルズはルナとともに巨大バナナと巨大セロリを丸かじりするのが、食事シーンである。

 

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(「スリーパー」本編より。バナナを食べるマイルズ)

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(「スリーパー」本編より。セロリを食べるルナ)

 

贔屓目に見ても、美味しそうには見えず、味気ない食事だ(※そもそもプラスチック?であるため実際には食べているふり)。
バナナとセロリというのも妙な取り合わせである。
ルナはこの食事に対して、デザートも調味料もワインもないと愚痴りながらも、もりもりと食べる。感謝を示す様子は微塵もない。
バナナはデザートではないのかと思ったりもしたが、そこは近未来。果物はデザートに含まれない事情があるのかもしれない。

 


食事を用意して、お互いお腹も満たされ、仲が深まるかと思いきや、まったくそんなことはない。
落ち着いた状態で、しっかりしたコミュニケーションが2人の間で交わされるのは劇中初めてであったこともあってか、お互いの罵り合いで終わってしまう。
ルナが助けを求めて大声を上げなくなったのは進展かもしれないが。

 


この後、紆余曲折があって、2人の絆も奇妙な形で深まっていくことになるのだが、それはまた食事シーンとは別の話なので、割愛しておこう。

 


ちなみに歴史的に見ると、野菜や果物は品種改良によって、どんどん大きく改良されてきたらしい。
そのため、現代において、巷で時折ニュースになる巨大野菜や巨大果物は、様々な条件が揃ったために、偶然一つだけ大きくなったケースが多いそうだ。
味や安全性は問題ないとのことである。
機会があれば、マイルズたちのように丸かじりするのもありかもしれない。

...機会があれば。

 


(文/三田稔/ライター)