TVディナー【映画の「食べる」を楽しむ:「ストレンジャー・ザン・パラダイス」】

映画に登場する食事シーンが好きだ。
映画を見終わったあと、劇中に登場した食事を食べたくなってしまっていたら、いかに内容がチープなものであったとしても、まいったような気分になってしまう。


食欲、性欲、睡眠欲は人間の三大欲求というけれど、僕の場合、それが映画の良し悪しにまで影響するというのだから、よっぽど食い意地がはっているということなのだろう。


そんな、人一倍食い意地のはっている僕であるが、今後不定期ながら、主に食事シーンにスポットを当てて、印象に残った映画を紹介していきたい。


初めての本記事では色々と迷ったが、まずは好きな作品にしようという思いから「ストレンジャー・ザン・パラダイス」という映画、および劇中に登場する「TVディナー」を紹介する。

 

〇 ストレンジャー・ザン・パラダイスについて

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1984年公開のフランス映画。
ジム・ジャームッシュ監督の喜劇作品だ。
物語は、ニューヨークで博打をしながら気ままに生活するウィリーの元に、ハンガリーで生活している従姉妹のエヴァが預けられるところから始まる。

当初は険悪なものの、そこにウィリーの博打仲間・エディも交えて、徐々に打ち解けていくこととなる。


かなり大雑把になったが、だいたいのストーリーはこんな感じだ。どこか厭世的な雰囲気の中で、ウィットに富んだ会話が交わされ、ニヤリとする要素を含んだ人間ドラマ作品となっている。
モノクロであることも相まって、さっぱりと感じられるニューヨークの街並みや登場人物を映し出すカメラワークもいい。

 

〇 劇中に登場する「TVディナー」について

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(「ストレンジャー・ザン・パラダイス」日本版予告編より)

当初、険悪であったウィリーとエヴァが交流し、次第に打ち解けていく過程の食事シーンで登場するのが「TVディナー」だ。


日本に住まれている方々の中には、「TVディナー」と言われても、ピンとこない方も多いかと思う。
かくゆう僕もその1人だった。
これについては、エヴァも劇中でウィリーに尋ねていることから同様だろう。


映像を見る限りでは、それはコンビニ弁当に近いもののように思えた。


劇中のウィリーの説明によれば「テレビを見ながら、食べる夕食」だから「TVディナー」なんだそうだ(ちなみに食事シーンにテレビは登場していない)。


単純明快、素直な直訳ではあるが、これだけでは、ちょっと僕にはなんのことかわからなかった。


色々調べたり、アメリカの友人に聞いてみたりしたところによれば、どうやら「TVディナー」とは、メインディッシュと副菜がすべて一つのトレイにセットになって販売されている冷凍食品のことで、アメリカではごくごくポピュラーなものらしい。


「テレビを見ながら食べることができる、お手軽ディナー」ということで、1950年代にアメリカで開発されたものとのこと(ウィリーの説明もあながち間違ってはいないようだ)。


ただ、アメリカの友人によれば、お手軽ディナー=手抜きディナーということもあって、美味しいものといった印象はあまりなく、寂しい、味気ないといったイメージも強いそうだ。


ウィリーが食べ始めた「TVディナー」について、エヴァはこんな風に尋ねる。

エヴァ:「その肉はどこから来たの?」

ウィリー:「牛からだろう」

エヴァ:「肉に見えない」

ウィリー:「アタマにくるぜ。これがアメリカの食事だ。肉、ポテト、野菜、デザート、皿洗いも必要ない」


ハンガリーで生活していたエヴァには「TVディナー」に馴染みがない。
そんなエヴァが「肉が肉に見えない」と言うということは、つまりおいしそうには見えないという意味だったのだろうか。


もっとも、ウィリーが頭にきたのは、「TVディナー」が云々というよりは、着地点の見えないエヴァとの会話についてなのだろうが。


このように、「TVディナー」のシーンは、物語序盤の険悪な2人の関係性を示しており、打ち解けるまでの過程の一つであるといえよう。
また、元々はハンガリー出身にも関わらず、わかりやすくアメリカにかぶれるウィリーの姿を示す端緒として見ても興味深い。


冷凍食品、インスタント食品、カップ麺etc...
なにかとジャンクなものが無性に食べたくなる今日このごろである。
これまで、人並みにジャンキーなものを平らげてきた僕ではあるが、まだ「TVディナー」は食べたことがない。
ぜひ、どこかで見つけて買うことができたら、ウィリーのようにアメリカンなスタイルで、ドリンク片手にガツガツと頬張ってみたいところだ。
日本でも買えるのか気になる次第である。

 

(文/三田稔/ライター)