信じるということ【星の子】ー『本屋大賞特集第九回』
様々なライターが、2018年・本屋大賞にノミネートされた10作品を紹介していく特集です。第9回は今村夏子さんの『星の子』です。
こんにちは、あかまつです。
星が散りばめられた夜空を走る一筋の流れ星。表紙の美しいデザインと『星の子』というタイトルに優しさを感じ、この物語はきっとほのぼのと心が温かくなる物語なんだろうなと想像し、何の前情報もなく読み始めました。
しかし最初の数ページを読んで思い直しました。「これは危ない作品だ、ほかの本屋大賞ノミネート作品とはまったく毛色が違うぞ」と。
あらすじ
主人公・林ちひろは中学3年生。
出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、
両親は《あやしい宗教》にのめり込んでいき、
その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。
両親は病弱なちひろを救うために藁にもすがる思いで、会社の仲間に紹介された水を使ってみます。するとちひろがみるみる健康になっていくんですね。両親は大切な愛娘を救ってくれた水をきっかけにどんどん宗教にのめり込んでいきます。
何にかえても守りたい娘を、治してくれたものにのめり込んでいくのはある意味当然な気もします。それほど娘が大事なんですよね。そして感謝は信仰にかわっていく。
物語は一貫して少女(ちひろ)の目線で進んでいきます。言ってしまえば彼女が知っていることしか読者には情報がないのです。宗教が怪しいということさえしらない、自分の家族がほかの家族と違うなんて大きくなるまで気づきません。
ただ私たち読者は宗教を信仰し過ぎること、つまり盲信してしまうことの恐ろしさを知っているから「大丈夫か?怪しいんじゃないか?」と疑問を持ちながら読みます。でもそれは知っているから。
この物語の基本的な場面は「家族」「学校」「団体の集会」の3つです。愛する家族も宗教の一部となり、読者と同じ客観的な目で見られるのは「学校」のみ。それぞれの場面で繰り広げられる物語のでのちひろの成長、現実世界との違和感を楽しむことが出来ます。
実際読んで感じて欲しいので書評はこのぐらいにしますが、最後に本書の帯には一つの文章が書かれています。
『大切な人が信じていることを、
わたしは理解できるだろうか。
一緒に信じることが、
できるだろうかー 』
本書が私たちに問いかけている気がしました。
宗教だけでなく、家族、同僚、先生、友達、恋人。
愛すること、理解すること、信じるということ。
それはどういうことですか?と。
『星の子』は本屋大賞ノミネート作品の中でも異彩を放つ作品です。ぜひ自分の目で、心で読んで感じてみてください。読む人の数だけ答えがあると思います。
それでは。