哲学、美学、信念。どうしたら気持ちよく聞こえるか【AX】ー『本屋大賞特集第八回』
様々なライターが、2018年・本屋大賞にノミネートされた10作品を紹介していく特集です。第8回は伊坂幸太郎さんの「AX」です。
伊坂幸太郎さんの作品とは長い付き合いだ。
初めて「魔王」を読んで、衝撃を受けたのは10年以上前になろうかと思う。
当時、爽やかな読後感を含む内容と文章の虜になったことをよく覚えている。
2017年本屋大賞にノミネートされた「AX」も、そんな爽やかな読後感を持った作品だ。
「AX」は「グラスホッパー」、「マリアビートル」に続く、伊坂作品における「殺し屋シリーズ」の最新作で、その名のとおり「殺し屋業界」がテーマの作品である。
本作の主人公「兜」は凄腕の殺し屋。しかし、妻一人、息子一人の家庭内では極端な恐妻家といった一面を持つ。
その「兜」の殺し屋としての仕事ぶりや、それに対する不満、家族とのやりとりを中心にストーリーは進んでいく。
「殺し屋業界」といっても、グロテスクな闇社会を描いた作品というわけではない。
どちらかというと牧歌的な雰囲気で、物語の随所に起伏はありながらも、淡々と物語は進んでいく。
これまでの「殺し屋シリーズ」にも言えるとも思うが、「殺し屋」という非日常的な存在から見た、今の私たちの日常の風景や一般社会への見方などの描写が特徴的だ。
また、そのほかにも伊坂作品における魅力の一つである
「登場人物らの持つ、妙に説得力のある屁理屈」
が今作品にもしっかりと盛り込まれている。
普通の人間が現実の世界で発言していたら、「えぇ?」と不愉快げに問うてしまうような理屈でも、伊坂作品の登場人物が発言すると、「なるほど!」と愉快げに頷けてしまう。そんな気持ちがいい魅力だ。
それは、登場人物らの持つ哲学や美学、信念が確固としたものに感じられるがゆえであるかもしれない。
なんにせよ、それらが登場人物の会話に一定のアクセントを与えているのは間違いないだろう。
そのほか、他作品の登場人物や世界観がリンクしているという特徴は本作品でも健在だ。
そんな要素についても、これまでの伊坂作品を読んだことがある人はニヤリとする部分があるかもしれない。
(文/三田稔)
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