あえて遠回りしてみる面白さ。【発酵文化人類学】【田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」】

みなさん、おいしいものは好きですか?

 


人それぞれおいしいと感じるものは違うとは思うのですが、たぶん、みなさんおいしいと感じるものは好きですよね。

 


ランチ、ディナー、デザート...なにかを食べようと思ったら、おいしいものを選んで食べる。
それは、栄養なんかに関しても同様で、同じ見た目、食感、味のもので、栄養価が低いものと栄養価が高いものがあれば、より栄養価の高いものを選んで食べる。

 


それらの選択にはある種の合理性があって、さまざまな情報が手軽に得られる現代では、そうした合理的な選択をすることは、自然なことだと思います。

 

 

そういった合理的選択がしやすく、効率的であることが良しとされることが多い社会、あるいは分野において、あえて不合理を追求し、そこに面白みを見つけながら生活する。

 

 

鳥取県で天然酵母を使用したパン屋「タルマーリー」の店主・渡邉格さんと「発酵デザイナー」として知られている小倉ヒラクさんが昨年の7月(めっちゃ前の話ですいません)に行ったトークイベント
「『発酵文化人類学』&『腐る経済_文庫』出版記念の発酵トーク!【タルマーリーのひみつ】小倉ヒラク×渡邉格」に参加させていただける機会があったので、トークを聞いてきました。

 

 


トークイベントは「発酵」をテーマに渡邉さんと小倉さんのお二人がトークするというもので、天然酵母やパンについて学べるのはもちろんのこと、働くことや社会など、生き方についても考えさせられるような内容でした。

 

 


天然酵母と純粋培養酵母の違いをそれぞれ「遊び人」、「エリート」に例えて、天然酵母が、いかに世話の焼ける酵母で面倒をしっかり見ていなければならないものであるかとの説明は、非常にわかりやすく、酵母に無知であった僕の頭にもすっと入ってきました。
天然酵母を使用して作ったパンは、そうした「遊び人」としての特長があるため、日によって味に波があり、中には店頭に出せないほどにまずいパンができてしまうこともあるそうです。

 

 


純粋培養酵母を使用して作った、市販のパンは常に均一の味を保つことはできるけども、そうなると人は舌を働かせなくなってくる―
失敗を繰り返して、たまに最高の味に出会えるというのが天然酵母の魅力であり、天然酵母で作るパンだけでなく、クラフトビールなどにも魅力もそこにあると渡邉さんは言います。

 

 

天然酵母のそうした特長のために、発酵の状況の確認など、面倒を見なければならない時間が増え、仕事とプライベートな時間があいまいになることも多いそうです。
しかし、渡邉さんにとっては、それ自体も自身が選んだ働き方で、面白さを感じているため、自分の場合は長時間労働=悪とは言えないと笑っていました。
長時間、短時間などもそうですが、自分の納得できる働き方であることが重要なことなのかもしれません。

 

 


科学至上主義が進んでいき、労働というものが画一化しかねず、面白みが持てなくなっている現代において、
あえて、あいまいで正解のないもの―渡邉さんにとってはそれが天然酵母であったわけですが、それを追求することで、面白みを見出すような生き方を、お二人の「発酵」をめぐるトークの中で見つけられたように感じます。

 

 


「発酵文化人類学」、「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」。この日買って帰りました。
両書籍のとも非常に面白く、お二人トークセッションで話されていた内容の一端についても感じ取れるような内容になっていると思います。

 

発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ

発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ

 

 

(文/とみー、編/三松文庫)